島村楽器テクニカルアカデミー 公式ブログ

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Andreas Preuss 氏による製作講義

1月も終わりに近づく中、昨年当ホームページでも紹介させていただいた卒業生の就職先の1つであるプロイス弦楽器マイスター工房(東京・池袋)のオーナー技術者のAndreas Preuss(アンドレアス・プロイス)氏が来校され、特別講義を実施してくださいました。

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特別講義とは

特別講義とは、バイオリンクラフト&リペア科が年間を通じて不定期に行っている内外から講師を招いて実施される通常のカリキュラムとは別の授業のことです。
特別講義では、たとえその内容が授業で教わったことであっても、普段とは違う講師の口から重ねて教わることでコンセプトや技術が補強・洗練されますし、また、学校で教わったことのないことであれば、新たな視点と刺激を受けられる機会になります。

今回のプロイス氏による講義には本科生全員が参加し、前半は学生作品へのアドバイス、後半に楽器製作についての座学という流れで授業は進みました。
今日はその様子を一部お伝えしていきたいと思います。

  • プロイス氏の楽器製作について

まず、今回は製作をテーマとしていますので、前置きとして学校の楽器とプロイス氏の楽器について製作の方法の差異について簡単に触れておきましょう。

製作される楽器の外観からの分類として、「新作仕上げ」や「アンティーク仕上げ(傷や摩耗、塗装の変化なども再現した仕上げ)」という通称がありますが、この分類に当てはめると学生が学校で製作する1台面で学ぶのは「新作仕上げ」、プロイス氏の楽器は「アンティーク仕上げ」となります。

ただし、この分類はあくまで表面上のもので、技術者にとって重要なのは、どちらかというと、どういうコンセプトをもって楽器製作に取り組むかという点にあります。

例えば、学校で1本目の楽器を新作仕上げで製作するのは、作業を遂行するための基礎技術力を高め、作業精度・美観やスタイルの重要さを理解し、まとめ上げる、という目的が元にあります。

プロイス氏の楽器がアンティーク調の仕上げをされるのは、モデルとする製作者の楽器から作業手法・道具・材料・経歴、等を徹底して読み取り、考証し、楽器が完成するまでの作者の意図を1つ1つ理解して再現する、という信念が製作の基にあるからでしょう。
(誤解がないように補足しますと、あくまで考えの1例です。新作仕上げで素晴らしい楽器を作る方もいますし、プロイス氏とは別のコンセプトでアンティークの製作をしている方々もいます。)

学生の楽器へのアドバイス

前半の講義ではプロイス氏にまず、学生の楽器を見ていただきました。今年はほとんどの学生がストラディバリの楽器を元に製作を行ったため
説明時にプロイス氏から「ストラディバリであれば、ここは・・」という様な表現で説明を受ける場面が多く見られました。

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一通りの楽器を見てアドバイスを下さった後、プロイス氏からは2つの質問が学生に投げかけられました。
ストラディバリは楽器作りにおいて何を目指したのか
②そしてそれをどのようにして(どのような方法で)実現したのか

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誰もが普段から考えていることでしょうが、改めて問われると明確に答えるのが簡単ではない質問です。プロイス氏は、これらの質問を紐解く様な形で、講義は後半に移っていきました。

製作についての講義

プロイス氏の製作について講義は、メートル法のない時代の楽器のプロポーションから始まり、昔の名工の使用した道具・どのようなコンセプトで製作を進めたか、など、広く展開していきました。
ご自身の経験も混ぜながら、様々な角度から製作に言及した講義であったと思います。

これらのお話の中でプロイス氏は、アンティーキングにおいても最も難しいものの1つは「ニス(ワニス)塗装」だ、と言っています。
アンティーキングの名手とも言えるプロイス氏をもってしても難しいとされる塗装について、プロイス氏はこれから勉強していく学生に、いくつかの示唆を与えてくれました。
それは、現代において、どれだけ科学が発達して、ニスの成分分析ができるようになったとしても作り方は科学者はすべてを書いてくれないということです。そして、科学は見たことは話せるが、見ていないことは話せない、という一見当たり前ではありますが忘れがちなことを話してくれました。
また、勉強をしていく上で大事なことはニスの研究をするには、(出版されているものを)すべて読まなければならないということです。

これから学びを深めていかなければならい学生にとっては、とても明確な指針となったのではないかと思います。

終わりに

講義は予定時間をオーバーし、氏のアドバイスも多岐に渡りましたので、すべてを書き記すことはできませんが、プロイス氏の製作に対する勉強と洞察眼をうかがい知ることができたのが何よりの勉強であったのではないかと思います。

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プロイス氏は、技術的難易度の高い修復についても深い見識をもち、ご自身の工房でも若手の技術者に向けた講義をたびたび行ってきていますが、氏の見識をもっと多くの方々に学んでいただくためにも、今後も代官山音楽院とコラボレーションができるのではないかと思います。2015年度の展開に期待したいですね!