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ギター解体深書 〜ギターのメンテナンスと調整vol.4

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最後の決め手、調整/セットアップ「後編」

 今回は前編に引き続き「ギターの調整/セットアップ」の後編をお送りいたします。
前編の内容とも密接に関わってきますので合わせてお読みいただくことをお勧めします。

前編の記事はこちら→

ギター解体深書 〜ギターのメンテナンスと調整vol.3 - 代官山音楽院 公式ブログ「DMAの日常」

前回は「トラスロッドの調整」・「弦高調整」についてお話させていただきましたが、今回は基本調整4つの内の残り、「オクターブ調整」と「ピックアップの高さ調整」の2つをお送りします。
 尚、今回紹介する調整も前回に引き続きいずれも元に戻せる調整ですが、自信の無い方は無理に作業せずに楽器店やリペアショップ等に持ち込む様にしましょう。特に調整に使うレンチやドライバーは適したものを使用しないと破損や不具合の原因になる場合がありますのでご注意ください。最後はプロの技術者に任せたほうが確実です。

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 オクターブ調整オクターブ・チューニング/イントネーション調整とも言う)は、フレット付き弦楽器の宿命とも言える“押弦時”のピッチの狂い(要は音が音痴になってしまうこと)を補正するために行ないます。
 フレットの位置というのは、弦長(ナットからブリッジまでの弦の長さ)から計算をすることで出されますが、これは平面上での計算になります。しかし実際に弦が張られるのは平面上ではなく立体的になります。その為、弦を押さえると計算上の長さよりも弦が長くなり音程が狂うのです。弦の長さが変わるということは弦の張力も変化し、しかも弦の太さによってその変化量も違うため特にコード弾きしたときなどに違和感が大きくなってしまうのです。

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 では、実際にどういった調整を行なうのかですが、簡単に言うと“ブリッジのサドルを後方に下げる”ように調整していくことになります。弦を押さえると弦長が長くなり音は低くなりそうなイメージですが、実際は長さの変化以上に増えた張力による音程変化のほうが大きく、音程は“#”するようになります。そこでその上がってしまった音程分を弦の長さを長くすることで補正するわけです。

 まずチューナーを用意して、各弦のチューニングをしっかりと合わせます。そして、12フレットでの実音(実際にフレットを押さえて出した音)と12フレット上でのハーモニクス音(弦に軽く触れた状態で弾弦したときに出るオクターブ上の音)を出し、チューナーで見比べます。
このとき、

ハーモニクス音より実音の音程が高い → ブリッジのサドルをボディエンド側に動かす
ハーモニクス音より実音の音程が低い → ブリッジのサドルをネック側に動かす

このように調整していきます。
これを各弦ごとに行いますが、正しく調整できると次の写真のような形になります。

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※3弦がプレーン弦の場合
太い弦(巻き弦の場合は芯線)ほどボディエンド側に寄ります。

 サドルの動かし方はブリッジによって様々ですが、エレキギターの多くはネジ式になっていてドライバーでネジを回すことで動かしていきます。フロイドローズは六角レンチでサドルが固定されているので、それを緩めてから指に力で動かしていきます。いずれの際にも弦高の調整時と同じように弦を一度緩めてから行います。
 現在のエレキギターでは各弦で独立して調整機構を持っているものが大半ですが、一部のモデルでは(テレキャスター等)一つのサドルに2本の弦が乗っていることがあります。その際は2つの中間を取るなどして合わせますが、その場合どう考えてもオクターブが合いません。そこでリプレイスメント用にあらかじめサドルが斜めになっていたり、弦の乗るサドルの頂点の位置をずらしているようなものもありますので、気になる方はお試しを。

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・ここまでの調整

 さてここまで前回分と合わせて3つの調整を紹介してきましたが、これらは互いに影響し合っています。
トラスロッドを動かすと弦高が変わり、弦高が変わるとオクターブが変わり、オクターブを合わせると弦高が変わるといった具合に、それぞれが独立したものではありません。あちらを立てるとこちらが立たず状態です。そうなるとここまで行なった調整は、“繰り返して行なう”ことでより精度が上がっていくことになります。さらにはナットの状態でも変わっていきますので大変です。(ナットの調整はよほどの自信が無いと手を出さないほうが賢明です)

一つ一つをしっかりと見ていくことも大事ですが、全体のバランスも重要です。"木を見て森も見ましょう。"

・ピックアップの高さ調整

 3つの基本調整を何度か繰り返して精度を上げたら、最後はピックアップの高さを調整します。この調整は、弦高と同じように決まりがあるわけではなく自分の好みで構いません。注意点としては、高さを上げて弦に近づければ単純に出力も上がっていきますが、上げすぎるとピックアップのポールピースの磁力が弦の振動を不安定にさせてしまいます。そうなると極端にサスティーンが無くなったり、サウンド的に“妙”になったりしますのでご注意を。

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 調整方法は通常ピックアップの両端にあるネジを回すことで上下させていきますが、ピックアップがピックガードやエスカッションにマウントされている場合は、下げすぎるとビスからピックアップが外れてしまい、戻すのが少々面倒になることがあるので注意して下さい。直付けの場合はピックアップ下のスポンジやスプリングが弱くなっていて調整ができないことがありますので、その場合はスポンジ等を交換するなどして対応します。
 通常はピックアップの傾きでバランスをとっていきますが、一部のピックアップではポールピース自体の高さを変え、各弦でのバランスを調整出来るようになっています。

※一部のピックアップはそもそも高さ調整ができないものもあります。

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 さて、ここまで前編・後編に渡って「自分でできる調整」ということでお送りしてきましたが、当然ながらこれで調整が完璧というわけではありません。特にナットやフレットの状態というのは今回の調整にも密接に関わってきます。今回の調整を自分でやってみて、もし「何かうまくいかないなぁ」、「ちっとも良くならないじゃないか」と感じたら、ぜひ経験豊かなプロの技術者に相談しましょう。多少コストは掛かってもきっとギターが見違えることでしょう。

 計4回に渡ってお送りした「メンテナンスシリーズ」がいかがでしたか?
文章と写真だけではなかなか伝えきれない部分が多いのですが、代官山音楽院では常時様々なイベントを用意しております。今回のようなメンテナンスのイベントだけでなく木工や塗装など体験しながら学べますので、「ギターのことをもっと知りたい!」という方やギターに関わる仕事に興味をお持ちの方はぜひご参加ください。

 「ギター解体深書」はまだ終わりではありません。これからもギターに関わる「あんなことやこんなこと」をどんどん紹介していきます。
そして次回は新シリーズ「リペアに関するetc.」をお送りします。このシリーズでは講師や学生が学校内で行なったリペアを不定期で紹介していく記事になります。
 栄えある第一回は「ナットの交換」を鵜飼先生の妙技と共にお送りします。お楽しみに!

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